この記事の要点(30秒サマリー)
– 養育費確保は 国が2分の1を負担する「離婚前後家庭支援事業」(こども家庭庁)を使える。自治体が全額を背負う必要はない。
– 補助を組み合わせると、市民の自己負担ゼロで「合意書面の作成→公正証書(必要な方)→養育費保証」まで通せる。
– 人口10万人規模でも、自治体負担は年約50万円が一つの目安。業務委託を実績連動にすれば歳出リスクも抑えられる。
– 補助を待たずとも、チラシ・特設サイトなど”ほぼ無償”で始められる施策がある。「小さく始めて広げる」が現実的。
「財源がない」は、始めない理由にならない
養育費確保に取り組みたいが予算が厳しい——担当職員から最もよく聞く声です。しかしこの領域には国の補助制度があり、ほとんど追加コストなしで始められる施策もあります。「財源ゼロだから無理」ではなく、「財源に応じて段階的に」始められるのが実情です。
中核となる国の補助「離婚前後家庭支援事業」
財源の柱が、こども家庭庁の 「離婚前後家庭支援事業」 です。離婚を考える人や離婚後の生活に不安を抱える人に対し、養育費の取り決めや親子交流の支援を行う自治体を、国が後押しする補助事業です。
最大のポイントは費用負担の構造です。この事業は 国が2分の1、都道府県・市区町村が2分の1 を負担します。つまり自治体が用意する予算は事業費の半分で済みます。国1/2+自治体1/2の補助制度を整備する自治体は、全国で200以上に拡大しています。
補助の対象になる主なメニュー
- ADR活用支援:認証ADR機関による協議離婚支援(合意書面の作成)。
- 公正証書作成支援:公証人手数料など、公正証書を作る場合の費用支援。
- 養育費保証支援:養育費保証契約の初回契約金など。
- そのほか、弁護士などによる法律相談、親教育講座・親子交流支援など。
上限額や対象メニューは自治体が自分の予算・体制にあわせて設計できます(公正証書作成支援・養育費保証支援などに上限5万円程度を設ける例が見られます)。「フルセットで始める」必要はなく、まず1〜2メニューからでも構いません。
「市民の自己負担ゼロ」を実現するスキーム
補助を組み合わせると、当事者は一切の自己負担なく養育費確保まで進めます。費用の流れを具体的に見てみましょう。
| 当事者が使うサービス | 本来の費用 | 対応する補助 |
|---|---|---|
| 離婚ADR(協議離婚支援) | 手数料 5万円(自治体連携価格) | ADR活用支援 |
| 公正証書の作成(必要な方のみ) | 公証人手数料 約3〜5万円 | 公正証書作成支援 |
| 養育費保証(希望する方) | 初回契約金 5万円 | 保証契約支援 |
これらを補助でまかなうことで、市民の自己負担は0円になります。さらに、合意書面の作成を電子署名ツール「チャイルドサポートサイン」(通常2,900円)で行えば、これも自治体連携で無償提供できるため、当事者は負担なく要件を満たす合意書面を作れます。
改正民法(2026年4月)で「公正証書がなくても私文書に強制力」が認められたため、公正証書は必須ではなくなりました。多くの当事者は、サインで作った合意書面+養育費保証で、より低コストに確実な養育費確保へ進めます。
このスキームの設計思想は 「当事者負担ゼロ」モデルの作り方 で詳述しています。
予算規模の目安(人口10万人の自治体)
「いくらかかるのか」は予算化の最初の関門です。一つのモデルケースを示します。
人口10万人規模の自治体で、ADR補助10件・公証人手数料補助5件・保証補助5件/年を想定すると、事業費はおよそ約100万円。国が2分の1を負担するため、自治体の実質負担は約50万円/年が目安になります。これは多くの自治体にとって、決して手の届かない規模ではありません。
件数は自治体の実情にあわせて増減でき、まず小さく始めて、利用状況を見ながら拡大できます。
補助を待たずに始められる”ほぼ無償”の施策
補助事業の予算化には時間がかかります。その前に、ほとんど追加コストなしで着手できる施策があります。
第一に、啓発チラシの設置。市民課が配布する離婚届にチラシを同封し、「書面作成の重要性」を伝え、支援サービスを紹介します。第二に、特設サイト・既存ページからの情報発信。子育て・ひとり親支援のページに、養育費の取り決めや相談先の情報を載せます。第三に、弁護士による職員研修。チャイルドサポートは職員向け研修を無償で提供しており、職員が制度を正しく理解すれば、日々の窓口対応の質が上がります。
これらは「予算ゼロ・低コスト」で始められる第一歩。ここで手応えを得てから補助事業の本格導入に進むのが、無理のない進め方です。
予算化の進め方(イメージ)
- 現状把握:自治体内のひとり親世帯数・相談状況、既存の関連事業を確認する。
- メニュー選定:まず取り組むメニュー(例:ADR活用支援・サイン無償提供)を1〜2個に絞る。
- 事業設計・積算:件数想定を置き、国1/2を前提に必要額を積算(10万人規模で自治体負担約50万円が目安)。
- 予算要求・議会説明:政策的意義(子どもの貧困対策・改正民法対応)と財政メリットを添える。議会説明は「国が半分負担」「成果がなければ歳出ゼロ」とシンプルに整理できる。
- 実施・周知・効果測定:チラシ・サイト等で確実に「届け」、利用数・取り決め率を測る。
議会・上司への説明材料は 議会・上司を動かす説明材料集、財政メリットの詳細は 養育費確保は財政にも効く をご覧ください。
なぜ「養育費保証支援」にお金をかける価値があるのか
補助メニューの中でも、養育費保証支援は効果が大きい一方、「保証にまで補助が必要か」と問われることがあります。ここは押さえておきたいポイントです。
養育費は、合意書面を作っただけでは「払われる保証」がありません。実際、取り決めをしても3人に1人は受け取れておらず、とりわけ離婚直後の最初の1年で支払いが途切れやすいことがわかっています。養育費保証は、この最もリスクの高い時期に、専門機関が立て替え・回収・差押え対応まで担い、当事者が相手と関わらずに受け取れるようにする仕組みです。
つまり、保証支援への補助は「合意書面を作って終わり」を「実際に養育費が届く」に変えるための、いわば確保の最後の一押しです。ここに補助があるかどうかで、施策の成果(受給率の改善)が大きく変わります。補助制度のある自治体では市民が自己負担ゼロで加入できるため、対象市の住民にとっては「入らない理由がない」状態を作れます。
既存予算・他事業との組み合わせ
新規の予算枠を一から立てるのが難しい場合でも、進め方はあります。ひとり親支援や子どもの貧困対策、男女共同参画など、関連する既存事業の枠組みの中に養育費確保の取り組みを位置づけ、啓発や職員研修といった低コスト施策から織り込んでいく方法です。離婚届交付という既存の窓口業務に、チラシ同封という形で接点を足すだけなら、新たな人員も大きな予算も要りません。まず既存の動線に乗せ、効果を見ながら補助事業の予算化に進む——この順序であれば、庁内の合意も得やすくなります。
「歳出リスクはゼロ」にできる
予算を預かる立場が気にするのは、「お金を使って成果が出なかったらどうするか」です。この取り組みは、その不安にも答えられます。
国庫補助(こども家庭庁)で自治体負担は2分の1。さらに、業務委託費を実績連動にすれば、成果がなければ歳出も発生しません。利用が生まれた分だけ費用が発生する設計にできるため、財政リスクを負わずに着手できます。「やってみて効果がなければ歳出ゼロ」——これが、最初の一歩を踏み出しやすい理由です。
年度サイクルとスケジュールの注意点
補助事業を予算化する際は、自治体の年度サイクルを意識しておくとスムーズです。当初予算に組み込むには前年度の早い段階からの準備が必要で、間に合わない場合は補正予算や、まず無償の実証から入る選択肢もあります。
おすすめは、予算を待つ期間を「空白」にしないことです。予算化の検討と並行して、離婚届へのチラシ同封や特設サイトの整備、無償の職員研修といった低コスト施策を先に動かしておけば、補助事業がスタートする頃には住民への接点と職員の知識がすでに整っている状態を作れます。制度が立ち上がった瞬間から利用につながるよう、「届ける準備」を先回りで進めておくのが、予算を無駄にしないコツです。
「届ける」までやって、はじめて成果になる
注意したいのは、補助制度を整えても、それだけでは利用は伸びないという点です。「制度はあるが使われない」——これは全国共通の課題です。「そんな制度は知らなかった」「相談先がない」「早く離婚したい」という当事者に、情報が届かないからです。予算を活かすには、当事者に確実に情報を届ける周知設計までをセットで考える必要があります。
「使われない」を解く周知設計は 制度を作っても使われないのはなぜか、全体像は 自治体の養育費確保 完全ガイド をご覧ください。
よくある質問(FAQ)
Q. 養育費確保に使える国の補助制度は?
こども家庭庁の「離婚前後家庭支援事業」です。ADR活用支援・公正証書作成支援・養育費保証支援などに、国が2分の1、自治体が2分の1を負担します。
Q. 自治体の負担はどのくらい?
事業費の2分の1です。人口10万人規模でADR10件・公証5件・保証5件/年を想定すると、自治体負担は年約50万円が目安です。実績連動の委託にすれば、成果がなければ歳出は発生しません。
Q. 市民の自己負担はゼロにできますか?
できます。ADR・公正証書・養育費保証の費用を補助でまかない、合意書面の作成もサイン無償提供を使えば、市民の自己負担は0円になります。
Q. 予算がほとんどなくても始められますか?
始められます。離婚届へのチラシ同封や特設サイトからの情報発信、無償の職員研修など、ほぼ追加コストのかからない施策から着手できます。
Q. 何から始めればいいですか?
まず低コストの啓発と職員研修から始め、手応えを見て補助事業のメニューを1〜2個導入するのが無理のない進め方です。
この記事の著者:佐々木裕介(弁護士/株式会社チャイルドサポート 代表取締役。法務大臣認証ADR機関 第184号)
※本記事の制度・補助内容・費用は、こども家庭庁「離婚前後家庭支援事業」等および自治体連携モデルの目安に基づきます。補助上限額・対象・運用・費用は自治体および契約により異なります。最新の正確な情報は所管省庁・各自治体の公表資料をご確認ください。
