この記事の要点(30秒サマリー)
– 2026年4月1日、改正民法が施行。柱は 共同親権・法定養育費・先取特権、そして実務上最重要の 「私文書への法的強制力」。
– これまで養育費に強制力を持たせるには公正証書が事実上の一択でしたが、要件を満たす私文書(合意書面)でもよくなりました。
– 窓口には「共同親権って何?」「取り決めしていないけどどうなる?」など新しい質問が増えます。
– 自治体は個別の法律判断には踏み込まず、「正しい情報と相談先への橋渡し」に徹するのが安全です。
2026年4月、何が変わったのか
2026年4月1日、改正民法が施行されました。離婚後の子の養育に関わる、家族法でも有数の大改正です。まず4つの柱を正確に押さえましょう。
① 共同親権の導入
これまで離婚後の親権は父母どちらか一方のみ(単独親権)でした。改正後は、離婚後も父母双方が親権を持つ「共同親権」を選べるようになりました。父母の協議で単独か共同かを決め、協議が調わない場合は家庭裁判所が判断します。
② 法定養育費の創設
取り決めをしないまま離婚するケースが多いことが長年の課題でした。改正により、取り決めがない場合でも、子1人あたり月2万円程度が自動的に発生する最低限の支払い義務(法定養育費)が設けられました。「取り決めゼロ」への歯止めです。ただし、これはあくまで最低限であり、きちんと取り決めをする代わりにはなりません。
③ 先取特権の付与
養育費が未払いになったとき、他の債権者に優先して回収できる「先取特権」が養育費債権に認められました(子1人あたり月8万円を上限とする範囲)。回収の実効性を高める措置です。
④ 私文書への法的強制力(実務上、最大の転換点)
そして現場にとって最も大きいのが、公正証書がなくても、法的要件を満たす私文書(合意書面)があれば強制力を持たせられるようになったことです。なぜこれが「最大の転換点」なのか、次章で説明します。
なぜ「私文書でよい」が決定的に重要なのか
これまで、養育費の約束に強制執行力(給与差押えなど)を持たせる方法は、離婚公正証書を作るのが事実上の一択でした。
ところが公正証書は、当事者にとって壁が高いものでした。作成までに数か月、費用は数万円、そしてすでに関係が壊れた夫婦が平日に2日ほど休みを取って公証役場へ出向く必要があります。離婚前後で新生活の立ち上げに追われる当事者に、これを全員が乗り越えろというのは現実的ではありません。結果として、公正証書の作成割合は約24%にとどまり、残りの多くが口約束やLINEでの約束(全体の53%)に流れていました。口約束には強制力がなく、相手に緊張感も生まれません。
改正民法は、この構造を変えました。要件を満たす私文書であれば、公正証書という高い壁を越えなくても強制力を持たせられる。つまり、スマホで完結する電子署名ツールでも、要件を満たせば強制執行に使える合意書面が作れるようになったのです。これは、養育費確保の「入口」が劇的に広がったことを意味します。
ただし、私文書なら何でもよいわけではない
注意が必要なのは、私文書であれば形式は自由、というわけではない点です。強制執行に耐えるには、次の2つの法的要件を満たす必要があります。
第一に、養育費債権の特定(執行力の担保)。当事者は誰か、いくらを、いつからいつまで、毎月いつ支払うのか——これらが明確でないと、裁判所で強制執行できないリスクがあります。
第二に、なりすまし防止措置(成立の真正)。単に署名があるだけでは、「本当に本人が署名したのか」という疑義が入り、これも強制執行できないリスクにつながります。電子署名や本人確認の仕組みで、本人が確かに合意したと証明できる必要があります。
この2要件を、当事者が自力で過不足なく満たすのは簡単ではありません。ここを支えるのが、後述する専門的なツールや伴走支援です。
改正がひらいた「新しい養育費確保の流れ」
「私文書でよい」時代になったことで、養育費確保は次の2ステップで完結できるようになりました。
- 養育費合意書面(私文書)の作成 … 要件を満たす合意書面を作る。
- 養育費保証への加入 … その合意書面をもとに、養育費の回収・保証を受ける。
かつて1にも2にも必須だった公正証書(債務名義)が、不要になったのです。これにより、当事者の時間・費用・心理的な負担が大きく下がりました。下表のとおり、入口が大きく変わったことが分かります。
| 従来(〜2026年3月) | 改正後(2026年4月〜) | |
|---|---|---|
| 強制力の付与 | 公正証書が事実上の一択 | 要件を満たす私文書でも可 |
| 必要な手間 | 数か月・数万円・平日に公証役場へ2日 | 電子署名なら数分・スマホで完結 |
| 養育費保証への加入 | 公正証書が必要 | 私文書の合意書面があれば可 |
| 当事者の到達しやすさ | 一部の人しか乗り越えられない | 原理的に全員が作れる |
たとえばチャイルドサポートの電子署名ツール「チャイルドサポートサイン」は、上記2要件を満たす合意書面をスマホで約3分作成できます。さらに、従来は公正証書がなければ加入できなかった養育費保証も、私文書の合意書面があれば加入できるようになりました。自治体連携でこれらを無償提供すれば、当事者は負担ゼロで「合意書面の作成→保証加入」まで進めます。
この流れを自治体としてどう設計するかは 「当事者負担ゼロ」モデルの作り方、全体像は 自治体の養育費確保 完全ガイド をご覧ください。
窓口に増える「新しい質問」と案内のポイント
制度が変わると、住民からの問い合わせも変わります。想定される質問と、案内の考え方を整理します。
「共同親権ってどうすればなれるの?」
父母の協議で決め、調わなければ家庭裁判所が判断する——という枠組みを案内します。どちらが子にとって適切かといった個別判断は、専門家や家庭裁判所の領域です。窓口は「決め方の流れ」を伝え、相談先につなぐのが安全です。
「養育費を取り決めていないけど、もらえるの?」
法定養育費の仕組みがある一方で、きちんと取り決めをして合意書面に残す方が、金額・期間・回収面で確実だと伝えます。法定養育費は最低限の歯止めであり、取り決めの代わりではありません。「いまは公正証書がなくても、要件を満たす書面なら強制力を持たせられる」ことも、あわせて案内できると親切です。
「相手が払ってくれない。どうすれば?」
先取特権など回収を後押しする制度ができたことを案内しつつ、実際の手続きは専門的なため、相談窓口(認証ADR機関・弁護士会・行政書士会など)につなぎます。養育費保証を使えば相手と関わらずに受け取れることも選択肢として伝えられます。
共同親権の導入が、養育費・面会交流に与える実務的な影響
共同親権は親権の話ですが、現場では養育費や面会交流(親子交流)の相談と切り離せません。離婚後も父母双方が子の養育に関わる選択肢ができたことで、「どちらがどの費用を負担するのか」「どのくらいの頻度で会うのか」といった、取り決めるべき事項がこれまで以上に具体的になります。
ここで大切なのは、共同親権か単独親権かにかかわらず、養育費の取り決めと面会交流の取り決めは、子の利益のために必要だという点です。親権の形が変わっても、「子どもの生活費をどう確保するか」「子どもが双方の親と関係を保てるか」という本質は変わりません。窓口では、共同親権という新しい選択肢の存在を伝えつつ、「いずれの場合も、養育費と面会交流をきちんと取り決めておくことが子どものためになる」という一貫したメッセージを届けられると理想的です。
なお、共同親権をめぐる個別の適否判断は、家庭の事情によって大きく異なり、専門的な判断を要します。窓口で結論を示すのではなく、相談先につなぐ姿勢が引き続き重要です。
職員が押さえておきたい注意点
第一に、個別の法律判断に踏み込まないこと。共同親権の可否や養育費の妥当額はケースごとに専門的判断が必要です。窓口は制度の概要案内と相談先への橋渡しに徹するのが、住民にとっても職員にとっても安全です。
第二に、「取り決めをしておく重要性」を一貫して伝えること。法定養育費や先取特権ができても、当事者がきちんと取り決めをして書面に残す価値は変わりません。むしろ「私文書でよくなった今」は、取り決めを広める好機です。
第三に、情報の鮮度に注意すること。施行直後は運用の細部が動くことがあります。最新情報は法務省・こども家庭庁の公表資料で確認しましょう。チャイルドサポートは、こうした最新の制度内容を扱う弁護士による職員研修を無償で提供しています。
「すでに離婚した人」にも関係があるのか
窓口でよく出るのが、「もう離婚してしまったが、今からでも何かできるのか」という相談です。改正民法は、これから離婚する人だけのものではありません。すでに離婚した家庭でも、養育費の取り決めをしていない、あるいは取り決めはあるが支払いが滞っている、というケースは多くあります。
こうした方にも、いまは選択肢があります。改めて要件を満たす合意書面を作れば強制力を持たせられますし、未払い分についても先取特権などの回収手段が整いました。養育費保証を使えば、これからの支払いを安定させることもできます。窓口では「離婚済みでも、これからの養育費を守る手立てはある」と伝え、相談先につなぐことができます。過去の制度を理由に「もう手遅れ」と思い込んでいる住民に、新しい選択肢の存在を知らせる意義は大きいといえます。
改正を「窓口の負担増」で終わらせない
改正民法の施行は、新しい問い合わせの増加を意味します。しかし見方を変えれば、これは養育費の取り決めや「正しい離婚」を住民に広める絶好のタイミングです。「制度が変わって、いまは無料・3分で法的に有効な合意が作れます」というメッセージは、当事者にとって朗報であり、自然に届きます。啓発チラシ・特設サイト・職員研修を組み合わせ、改正対応を当事者支援を深める機会に変えていきましょう。
よくある質問(FAQ)
Q. 改正民法はいつ施行されましたか?
2026年4月1日に施行されました。
Q. 公正証書がないと養育費に強制力は持たせられませんか?
いいえ。改正により、法的要件(債権の特定・なりすまし防止)を満たす私文書(合意書面)があれば強制力を持たせられるようになりました。電子署名ツールでの作成も可能です。
Q. 法定養育費はいくらですか?
取り決めがない場合の最低限の支払い義務として、子1人あたり月2万円程度が目安とされています。取り決めの代わりではありません。
Q. 先取特権の上限は?
子1人あたり月8万円を上限とする範囲で、他の債権者に優先して回収できます。
Q. 窓口で個別の法律相談に答えてよいですか?
個別判断は専門的なため、制度の概要を案内し、認証ADR機関・弁護士会・行政書士会などの相談先につなぐのが安全です。
この記事の著者:佐々木裕介(弁護士/株式会社チャイルドサポート 代表取締役。法務大臣認証ADR機関 第184号)
※本記事の法令・制度は2026年4月1日施行の改正民法等に基づきます。私文書の法的有効性には要件があり、個別の効力は事案により異なります。施行後の運用細部は変わる場合があります。最新情報は法務省・こども家庭庁の公表資料をご確認ください。
