「当事者負担ゼロ」モデルの作り方|補助金×サイン×ADR×養育費保証【自治体職員向け】

この記事の要点(30秒サマリー)
– 自治体のアセット(離婚届窓口)+国の補助+専門サービスを組み合わせると、市民の自己負担ゼロで養育費確保まで通せます。
– 構成要素は4つ:①啓発(離婚届窓口)②チャイルドサポートサイン(合意書面・無償提供)③離婚ADR ④養育費保証
– 改正民法(私文書に強制力)により、公正証書は必須でなくなり、より低コスト・短時間で確保まで到達できます。
– 補助で費用をまかなえば、ADR・公正証書(必要な方)・保証の自己負担はすべて0円にできます。

「当事者負担ゼロ」とは何か

養育費確保が進まなかった大きな理由は、当事者の負担(時間・費用・心理)の重さでした。「当事者負担ゼロ」モデルとは、自治体のアセット・国の補助・専門サービスを組み合わせ、住民が一切の自己負担なく、養育費の取り決めから受け取りまで到達できるようにする設計のことです。

ポイントは、どれか一つの施策ではなく、複数の部品を一本の道につなぐことです。気づき → 合意 → 保証、という流れを切れ目なくつなぎます。

4つの構成要素

① 啓発(自治体のアセット:離婚届窓口)

出発点は、自治体だけが持つ強力なアセット——離婚届の交付窓口です。市民課が配布する離婚届にチラシを同封し、「口約束ではなく、書面で取り決めることの重要性」を伝えます。これが、当事者が支援に出会う入口になります。追加コストはほとんどかかりません。

② チャイルドサポートサイン(合意書面の作成・無償提供)

次に、要件を満たす合意書面を作ります。チャイルドサポートサインは、強制執行に必要な法的要件(債権の特定・なりすまし防止)を満たす養育費の合意書面を、スマホで約3分・電子署名で作成できるツールです。通常2,900円ですが、自治体連携により対象市の市民には無償提供します。これにより、公正証書という高い壁を越えなくても、全員が法的に有効な合意書面を持てます。

③ 離婚ADR(協議離婚支援)

話し合いが難しい夫婦には、弁護士・行政書士が第三者として伴走する離婚ADRがあります。相互の優先事項を整理し、譲歩を促進し、合意を法的書面にまとめます。対面が不要な形でも進められ、関係が壊れた当事者でも前に進めます。手数料は自治体連携価格で5万円ですが、補助でまかなえます。

④ 養育費保証

合意ができても、相手が払わなければ意味がありません。養育費保証は、チャイルドサポートが立て替え・回収・差押え対応まで担い、当事者が相手と関わらずに養育費を受け取れる仕組みです。最も途切れやすい最初の1年を守ります。改正民法以降は、公正証書がなくても私文書の合意書面があれば加入できます。

費用構造:すべて自己負担ゼロにできる

各部品の費用と、対応する補助を整理します。

当事者が使うサービス 本来の費用 対応する補助 当事者負担
チャイルドサポートサイン(合意書面) 2,900円 自治体連携で無償提供 0円
離婚ADR(協議離婚支援) 5万円(自治体連携価格) ADR活用支援 0円
公正証書の作成(必要な方のみ) 公証人手数料 約3〜5万円 公正証書作成支援 0円
養育費保証(希望する方) 初回契約金 5万円 保証契約支援 0円

改正民法で「私文書に強制力」が認められたため、公正証書は必須ではありません。多くの当事者は、サインで作った合意書面+養育費保証という、より低コスト・短時間のルートで確保まで到達できます。

補助金の使い方・予算規模の目安は 予算ゼロでも始められる補助金活用ガイド をご覧ください。

当事者から見た「一本の道」

このモデルを当事者の視点で並べると、こうなります。

  1. 離婚届を取りに市役所へ行く。窓口でチラシを受け取り、「書面で取り決める」選択肢を知る。
  2. 不安な点は、認証ADR機関の無料電話相談(当日・翌日・昼夜対応)や無料シミュレーションで整理する。
  3. 話し合いが必要なら離婚ADRで伴走支援を受け、合意を作る。
  4. チャイルドサポートサインで、要件を満たす合意書面をスマホで3分で作成する。
  5. 養育費保証に加入し、最初の1年を守る。相手と関わらずに毎月の養育費を受け取る。

これらすべてを、自己負担ゼロで——。これが「当事者負担ゼロ」モデルの完成形です。

ケース別に見る「通り方」

当事者の状況はさまざまです。このモデルは、状況に応じて柔軟に通れる設計になっています。代表的な3パターンで見てみましょう。

① ある程度話し合える夫婦。 大筋で合意できているなら、チャイルドサポートサインで要件を満たす合意書面をスマホで作成し、必要に応じて養育費保証に加入する——という最短ルートで、短時間・低コストに確保まで到達できます。

② 対立があり、話し合いが難しい夫婦。 直接の話し合いが難しい場合は、離婚ADRで弁護士・行政書士が第三者として伴走します。対面不要で進められ、相互の優先事項を整理しながら合意を作り、書面化します。その後、保証へつなげます。

③ すでに離婚しているが、取り決めや支払いに不安がある人。 改正民法以降は、離婚後でも要件を満たす合意書面を作れば強制力を持たせられます。これからの支払いを養育費保証で安定させることもできます。「もう手遅れ」ではありません。

どのケースでも、入口(啓発)と出口(保証)は共通で、間の通り方が変わるだけです。

自治体の運用負荷は小さい

「当事者負担ゼロ」と聞くと、自治体側の手間が大きいのではと心配されることがありますが、実際の運用負荷は抑えられます。自治体が担うのは、主に啓発(チラシ同封・サイト掲載)と、補助の事務です。専門的な相談・書面作成・養育費の回収・差押え対応といった手間のかかる実務は、すべて認証機関側が担います。個別のセンシティブな相談を職員が抱え込む必要もありません。「住民にできることが増えるのに、職員の負担は増えない」——これがこのモデルの設計思想です。

つまずきやすいポイント

導入で気をつけたい点もあります。最大の落とし穴は、部品をそろえても「届ける」設計を欠くことです。サインも保証も用意したのに、離婚届窓口での案内やサイトへの導線がなければ、当事者はその存在に気づけません。もう一つは、公正証書が必須だと思い込むこと。改正民法以降は私文書で足りる場面が多く、当事者の負担を不要に重くしないことが大切です。部品の用意と「届ける」設計は、必ずセットで考えます。

導入ステップ(自治体側)

自治体としては、次の順序で組み立てるのが現実的です。

第一に、啓発から。離婚届へのチラシ同封と特設サイトの整備。第二に、職員研修で窓口対応の質を上げる(弁護士による無償研修を活用)。第三に、補助メニューの整備。サイン無償提供・ADR活用支援・養育費保証支援などを、こども家庭庁の補助(国1/2)で導入する。すべてを一度にそろえる必要はなく、できる部品から接続していけば、徐々に「一本の道」が完成します。

全体像は 自治体の養育費確保 完全ガイド、財政メリットは 養育費確保は財政にも効く をご覧ください。

無料相談・シミュレーションも組み込む

「当事者負担ゼロ」モデルには、合意書面と保証だけでなく、入口の不安を解消する受け皿も組み込めます。

認証ADR機関の法律専門家による無料電話相談は、当日・翌日・昼夜対応で、平日昼間中心の自治体の弁護士無料相談を補完します。「何から始めれば」という最初の不安に応える窓口です。スマホで完結する無料シミュレーション「離婚の問診票」は、決めるべき論点を一つずつ整理し、離婚協議書の原案づくりまで支援します。これらを動線に組み込めば、「気づく → 相談・整理する → 合意を作る → 保証で守る」という流れが、より滑らかになります。すべて、対象市の市民には無償で提供できます。

導入チェックリスト

自治体として「一本の道」を組み立てる際の確認項目です。

  • 離婚届交付窓口での啓発(チラシ同封)の準備はあるか
  • 特設サイト・ガイドブックなど、検索で着地できる受け皿はあるか
  • 職員研修で窓口の案内品質を担保できているか
  • サインの無償提供を補助・連携で用意できているか
  • ADR活用支援・公正証書作成支援・養育費保証支援の補助を整える計画はあるか
  • 無料電話相談・シミュレーションへの導線を置いているか
  • 各接点が「点」でなく「動線」としてつながっているか

これらが埋まっていくほど、「当事者負担ゼロ」の道は太く、確実なものになります。

よくある質問(FAQ)

Q. 「当事者負担ゼロ」はどうやって実現するのですか?
自治体の離婚届窓口(啓発)、こども家庭庁の補助、チャイルドサポートサインの無償提供、離婚ADR、養育費保証を組み合わせ、各サービスの費用を補助でまかなうことで、市民の自己負担を0円にします。

Q. 公正証書は必ず必要ですか?
いいえ。改正民法(2026年4月)以降、要件を満たす私文書(サインで作る合意書面)があれば強制力を持たせられ、養育費保証にも加入できます。公正証書は希望する方のみで構いません。

Q. チャイルドサポートサインの費用は?
通常2,900円ですが、自治体連携により対象市の市民には無償で提供します。スマホで約3分・電子署名で作成できます。

Q. 養育費保証は何を守ってくれますか?
チャイルドサポートが立て替え・回収・差押え対応まで担い、相手と関わらずに養育費を受け取れます。最も途切れやすい最初の1年をカバーします。

Q. 何から導入すればいいですか?
まず啓発(チラシ・サイト)と職員研修から始め、補助でサイン無償提供・ADR支援・養育費保証支援を整えるのが現実的な順序です。


この記事の著者:佐々木裕介(弁護士/株式会社チャイルドサポート 代表取締役。法務大臣認証ADR機関 第184号)

※費用・補助内容は自治体連携モデルの目安であり、補助上限額・対象・運用・サービス費用は自治体および契約により異なります。私文書の法的有効性には要件があり、個別の効力は事案により異なります。最新の制度はこども家庭庁・各自治体の公表資料をご確認ください。