自治体の養育費確保 完全ガイド|民法改正で変わった「新しい3つの打ち手」と進め方【2026年版】

この記事の要点(30秒サマリー)
– ひとり親(母子世帯)で養育費を受け取れているのは 28%。背景には「口約束で終わる」「途中で止まる」という二つの壁があります。
2026年4月の民法改正で、公正証書がなくても要件を満たす私文書に法的強制力が認められました。養育費確保のやり方が根本から変わっています。
– これにより、(1)合意書面の啓発、(2)電子署名ツール「チャイルドサポートサイン」の無償提供、(3)養育費保証の自治体連携、という新しい3つの打ち手が可能になりました。
– こども家庭庁の補助(国1/2)を使えば、市民の自己負担ゼロ・自治体の歳出リスクゼロで始められます。
– 本記事は全体像のハブです。改正民法・補助金・財政メリット・事例など、個別テーマは各詳細記事へリンクしています。

なぜ今、自治体が「養育費確保」に取り組むのか

養育費の確保は、ひとり親家庭支援の中でいま最も動きの大きい領域です。深刻な現状、それを後押しする制度、そして2026年の法改正という地殻変動が重なっているからです。

数字が示す、静かな危機

こども家庭庁の「令和3年度 全国ひとり親世帯等調査」によれば、母子世帯のうち養育費を「現在も受けている」と答えた割合は 28% にとどまります(「過去に受けたことがある」14%、「一度もない」58%)。父子世帯ではさらに低く8.7%です。

ひとり親家庭を取り巻く状況は厳しさを増しています。母子世帯数は過去30年でおよそ5割増加し、母子世帯の母の非正規雇用での平均就労収入は約133万円。相対的貧困率は5割を超えます。養育費の平均月額は約5万円——年間にすれば約60万円が、本来受け取れるはずの子どものもとに届いていません。

養育費は、生活保護や各種手当のような公的給付とは性質が異なります。これは本来、親が自らの責任で子どもに支払うべきお金(私的扶養)です。それが支払われないことを放置すれば、本来親が負うべき責任が、社会保障という形で公費に転嫁されていきます。養育費の確保は、子どもの利益を守ると同時に、公的負担の適正化にもつながる——だからこそ多くの自治体が「ひとり親支援」の重点施策に位置づけ始めています。

ひとり親家庭等への国の支援は、「子育て・生活支援」「就業支援」「養育費確保等支援」「経済的支援」の4本柱で進められており、養育費確保はその一つです。

養育費が届かない「二つの壁」

なぜ7割もの家庭で養育費が届かないのか。現場を見ると、壁は大きく二つあります。

壁①:口約束で終わってしまう。 日本の離婚の約9割は、裁判所を介さない「協議離婚」です(子どものいる離婚で、協議離婚は年間約8万組、調停離婚は約2万組)。第三者のチェックが入らないまま、養育費の約束を口約束やLINEで済ませる夫婦が全体の53%にのぼるという調査があります(令和3年・法務省「協議離婚に関する実態調査報告書」)。口約束には法的な強制力がなく、相手に緊張感も生まれません。実際、養育費の取り決めを法的書面(公正証書など)にできている人はごく一部で、公正証書の作成割合は約24%程度にとどまります。

壁②:取り決めても、途中で止まる。 たとえ約束をしても、3人に1人は受け取れていません。「今月は厳しい」「もうこの人からお金をもらい続けるのは無理」「子どもに会わせてもらえない」——経済的な事情と感情のもつれが重なり、20年近く続くはずの支払いが途中で途切れてしまう。しかも養育費は、離婚直後の最初の1年が最も途切れやすいことがわかっています。

この二つの壁を、これまでの自治体施策はうまく崩せませんでした。理由は次の章にあります。

地殻変動:2026年4月の民法改正で、何が変わったのか

養育費確保が長く進まなかった最大の理由は、「正しく取り決める」ためのハードルが高すぎたことにあります。

これまで、養育費の約束に法的な強制力(給与差押えなどの強制執行力)を持たせるには、離婚公正証書を作るのが事実上の一択でした。しかし公正証書は、当事者にとって壁が高い。数か月の時間がかかり、数万円の費用がかかり、すでに関係が壊れた夫婦が平日に2日ほど休みを取って公証役場へ出向く必要があります。離婚前後は新生活の立ち上げで精一杯の当事者に、これを全員が乗り越えろというのは現実的ではありませんでした。だから公正証書の作成率は24%程度にとどまり、残りの多くが口約束に流れていたのです。

ここに、2026年4月1日施行の改正民法が大きな転換をもたらしました。柱は4つです。

  • 共同親権の導入:離婚後も父母双方が親権を持つ選択肢が認められた。
  • 法定養育費の創設:取り決めがなくても、子1人あたり月2万円が自動的に発生する最低限の支払い義務。
  • 先取特権の付与:未払い時に他の債権者に優先して回収できる権利(子1人あたり月8万円が上限)。
  • 私文書への法的強制力:そして実務上最も重要なのが、公正証書がなくても、法的要件を満たす私文書(合意書面)があれば、強制力を持たせられるようになったことです。

この4点目が、養育費確保のやり方を根本から変えました。公正証書という高い壁を越えなくても、要件を満たす合意書面さえあれば、給与差押えも、養育費保証への加入も可能になったのです。

〜2026年3月(従来) 2026年4月〜(改正後)
強制力を持たせる方法 離婚公正証書が事実上の一択 要件を満たす私文書(合意書面)でも可
作成の負担 数か月・数万円・平日に2日ほど公証役場へ 電子署名なら数分・スマホで完結
養育費保証への加入 公正証書が必要 私文書の合意書面があれば可
取り決めをする人の割合 公正証書作成は約24%にとどまる 入口が広がり、全員が作れる状態を目指せる

改正の詳細と窓口対応は 改正民法2026施行──自治体窓口の対応はこう変わる で解説しています。

新しい3つの打ち手──自治体連携でできること

「私文書でよい」時代になったことで、自治体が当事者に提供できる打ち手が一気に広がりました。チャイルドサポートは、次の3つを組み合わせて養育費確保を前進させます。

打ち手①:合意書面の重要性を「啓発」する

すべての出発点は、当事者が「口約束ではなく、法的に守られる書面で取り決める」と知ることです。離婚届を取りに来た住民に、市民課の窓口で啓発チラシを手渡す。特設サイトや広報誌で「正しい離婚」を伝える。職員が改正民法を理解し、適切に案内する。行政だからこそ信頼して受け取ってもらえる、この情報の橋渡しが第一の打ち手です。

打ち手②:電子署名ツール「チャイルドサポートサイン」を無償提供する

合意書面を作るといっても、私文書なら何でもよいわけではありません。強制執行に耐えるには、(1)養育費債権の特定(当事者・金額・支払い期間などが明確で執行力を担保できること)と、(2)なりすまし防止措置(本人が確かに署名したと証明できる成立の真正)という法的要件を満たす必要があります。

チャイルドサポートの 「チャイルドサポートサイン」 は、この要件を満たす合意書面をスマホで約3分で作成できる電子署名ツールです。ウェブブラウザ上で完結し、本人確認書類をアップロードして電子署名するだけ。これで、給与差押えにも、養育費保証への加入にも使える合意書面が完成します。

通常は2,900円のサービスですが、自治体連携によって、対象市の市民には無償で提供します。数か月・数万円・平日2日という公正証書の壁を、3分・スマホ・無料に置き換える。これにより、「協議離婚をするなら全員が、法的強制力のある養育費合意を作れる」状態を目指します。

打ち手③:養育費保証の自治体連携モデル

合意書面ができても、相手が払わなければ意味がありません。そこで第三の打ち手が 養育費保証 です。チャイルドサポートが間に入り、養育費を立て替えて受取側に支払い、支払う側から回収します(収納代行+保証)。未払いがあれば給与差押えなどの対応もこちらで行うため、「離婚後は相手と一切関わりたくない」という人でも、相手と連絡を取らずに養育費を受け取れます

ここでも改正民法が効いています。従来、養育費保証に加入するには公正証書が必要でしたが、いまは私文書(サインで作った合意書面)があれば加入できます。そして、養育費が最も途切れやすい最初の1年間を保証会社が守ります。養育費保証の補助制度がある自治体なら、自己負担ゼロで加入できるため、対象市の市民は全員が加入を選べる仕組みになります。

この3つを束ねると、「啓発で気づき → サインで要件を満たす合意を無料で作り → 保証で最初の1年を守る」という、当事者負担ゼロの一本道が完成します。

スキームの費用面は 「当事者負担ゼロ」モデルの作り方 で詳述しています。

養育費保証の仕組みを、もう少し詳しく

3つ目の打ち手である養育費保証は、自治体の担当者からも「具体的にどう動くのか」とよく質問を受けます。仕組みを整理しておきます。

養育費保証は、収納代行と保証を組み合わせたサービスです。受取側(多くはひとり親)と支払側(義務者)の間にチャイルドサポートが入り、毎月の養育費を立て替えて受取側に支払い、支払側から回収します。もし支払側が支払わなければ、給与差押えなどの対応もこちらで行います。

このモデルには、当事者にとって二つの大きな意味があります。

一つは、相手と関わらずに養育費を受け取れること。「もう元配偶者と連絡を取りたくない」という人は少なくありません。回収の窓口を専門機関が担うことで、当事者は感情的な負担なく、毎月の養育費を受け取れます。

もう一つは、最も途切れやすい時期を守れること。養育費は、離婚直後の最初の1年に支払いが止まりやすいことがわかっています。新生活の混乱、相手の心変わり、感情のこじれ——リスクが集中するこの時期を、保証会社が支えます。チャイルドサポートの保証は、この立ち上げ期をカバーする設計です。

そして前述のとおり、改正民法以降は公正証書がなくても、サインで作った私文書の合意書面があれば加入できます。補助制度のある自治体なら自己負担ゼロで加入できるため、対象市の市民にとっては「入らない理由がない」選択肢になります。

「正しい離婚」という考え方

ここまで制度や仕組みの話を続けてきましたが、根底にある考え方も共有させてください。

夫婦の関係は離婚で終わります。しかし、親子の関係は一生続きます。離婚は子どもにとっての終わりではなく、親が別々に暮らしながらも子どもを支え続けるための「再出発」であるべきです。そのために、養育費をきちんと取り決め、法的に守られる形に残し、確実に支払われるようにする——チャイルドサポートはこれを「正しい離婚」と呼んでいます。

「正しい離婚」は、離婚を勧めるものでも、誰かを責めるものでもありません。すでに離婚を決めた当事者が、子どものために必要な手続きをきちんと踏めるよう支えることです。この理念は、自治体が「子どもの最善の利益」を掲げて施策を進めることと、まっすぐ重なります。だからこそ、行政と専門機関の連携が自然に成り立つのです。

自治体にとってのメリット

この取り組みは、現場の担当者にとっても、予算を見る立場にとってもメリットがあります。

担当者にとって。 これまで「養育費が払われず生活が苦しい」という相談に、手当や貸付の案内までしかできず、「あとは弁護士へ」としか言えないもどかしさがありました。3つの打ち手があれば、「無料で、法的に有効な合意を作り、最初の1年は保証で守れます」と、自信を持って具体的な道筋を示せます。窓口の「点」が、支援の「線」につながります。

予算を見る立場にとって。 養育費(私的扶養)が機能すると、所得に連動する給付(児童扶養手当など)への依存が下がり、社会保障費の抑制につながります。しかも、こども家庭庁の補助で国が費用の半分を負担し、業務委託を実績連動にすれば、成果がなければ歳出も発生しない設計が可能です。財政リスクを抑えながら、子どもの貧困対策を前に進められます。

予算・財政の詳しい考え方は 養育費確保は財政にも効く──歳出削減とリスクゼロの考え方、補助金の使い方は 予算ゼロでも始められる補助金活用ガイド をご覧ください。

取り組みの進め方──小さく始めて、育てる

大がかりな準備は要りません。多くの自治体は次の段階で取り組みを育てています。

第1段階:啓発から。 離婚届の交付窓口にチラシを置く、既存ページから情報発信する。追加の予算も人手もほとんどかかりません。

第2段階:職員の知識を底上げ。 改正家族法や養育費制度に関する職員向け研修を実施し、窓口対応の質を高めます。チャイルドサポートは弁護士による職員研修を無償で提供しています。

第3段階:補助制度を活用し、本格連携。 こども家庭庁の補助を使い、サインの無償提供・公正証書作成支援・養育費保証支援を整えます。ここで「啓発→合意→保証」の一本道が完成します。

すべてを一度にそろえる必要はありません。体制と予算にあわせ、できるところから育てていくのが現実的です。

効果の測り方は 養育費確保事業のKPI・効果測定 をご覧ください。

つまずきポイントと、その乗り越え方

担当者が庁内・議会でぶつかりやすい壁には、それぞれ詳細記事を用意しています。

他自治体は、どう取り組んでいるか

チャイルドサポート(法務大臣認証ADR機関 第184号)は、現在6つの自治体と連携しています。うるま市・磐田市・山形市・南さつま市・戸田市・守口市です。

たとえばうるま市では、市民課が離婚届を配布する際にチラシで「書面作成の重要性」を伝え、子ども家庭課が当事者の状況別に、無料電話相談・サイン(電子合意書面)・養育費保証などの支援を対面で案内する流れを整えています。各市ごとに、補助制度・公証役場の場所・相談窓口まで作り込んだ「自治体別ガイドブック」を用意し、住民が自分の市の名前で検索すれば最適な情報にたどり着けるようにしています。

形態別の進め方や各市の取り組みは 他自治体の連携事例まとめ で紹介しています。

当事者(市民)向けに提供できる支援

自治体を通じて、市民には次の支援も無償で届けられます。

ADR機関の法律専門家による無料電話相談。 自治体が設置する弁護士無料相談は人気が高く、月数枠がすぐ埋まり2〜3か月待ちになることもあります。しかも平日昼間の予約制で、共働き世帯には使いにくい。チャイルドサポートの無料電話相談は、当日・翌日の相談が可能で、電話・昼夜対応。自治体の無料相談を補完し、忙しい住民にも届きます(提供主体:法務大臣認証ADR機関 第184号)。

自治体の弁護士無料相談 チャイルドサポートの無料電話相談
対象 法的紛争がある方など法律相談全般 協議離婚・養育費・親子交流などの取り決め
相談枠 月数枠で満枠になりがち(2〜3か月待ちも) 当日・翌日相談が可能
場所・時間 市役所相談室・平日昼間 電話で昼夜対応

両者は競合ではなく補完関係です。自治体の相談枠でカバーしきれない「協議離婚の取り決め」を、当社の電話相談が受け止めます。

無料シミュレーション「離婚の問診票」。 スマホで完結する、弁護士監修の離婚条件シミュレーションです。決めるべき論点を一つずつ整理し、離婚協議書の原案づくりまで支援します。

よくある質問(FAQ)

Q. 民法改正で、養育費確保のやり方はどう変わりましたか?
2026年4月から、公正証書がなくても法的要件を満たす私文書(合意書面)に強制力が認められました。これにより、電子署名ツールで作った合意書面で給与差押えや養育費保証への加入が可能になり、当事者の負担が大きく下がりました。

Q. チャイルドサポートサインとは何ですか? 費用は?
法的要件を満たす養育費の合意書面を、スマホで約3分・電子署名で作成できるツールです。通常2,900円ですが、自治体連携により対象市の市民には無償で提供します。

Q. 養育費保証は誰でも使えますか?
改正民法以降、公正証書がなくても私文書の合意書面があれば加入できます。補助制度のある自治体では自己負担ゼロで加入でき、最も途切れやすい最初の1年間を保証会社が守ります。相手と関わらずに養育費を受け取れます。

Q. 自治体の費用負担は?
こども家庭庁「離婚前後家庭支援事業」を使えば国が2分の1を負担します。業務委託を実績連動にすれば、成果がなければ歳出も発生しない設計が可能です。

Q. 何から始めればいいですか?
まず低コストの啓発から始め、職員研修で知識を底上げし、補助を使ってサイン無償提供・養育費保証へと広げるのが無理のない進め方です。

よくある誤解にお答えします

検討を進めるなかで生まれやすい誤解を、先に解いておきます。

「離婚を推奨することにならないか?」 支援しているのは「離婚」ではなく「正しい離婚」です。すでに離婚を決めた当事者が、子どものために必要な手続きを踏めるようにすることであり、離婚を勧めるものではありません。むしろ、感情のもつれで養育費が置き去りにされ、子どもが困窮することを防ぐ取り組みです。啓発資料でもこの区別を明確にしています。

「うちは離婚件数が少ないので効果が薄いのでは?」 件数の多寡にかかわらず、一つの家庭で養育費が確保されれば、その子どもの10年・20年が変わります。小規模自治体ほど、低コストの啓発から始めて一件ずつ丁寧に支える進め方が向いています。件数が少なければ、それだけ予算規模も小さく済みます。

「民間企業に任せて大丈夫か?」 チャイルドサポートは法務大臣認証のADR機関であり、国の補助事業の枠組みのなかで役割分担します。専門性の高い実務を認証機関が担い、自治体は情報の橋渡しに徹する——合理的な分担です。公平性・調達・個人情報といった懸念には、個別の詳細記事で具体的に答えています。

「制度を作れば住民は使ってくれるのでは?」 残念ながら、これは最も多い誤算です。「制度はあるが知られていない・届いていない」のが全国共通の課題です。だからこそ、補助制度の整備と同じ重みで、当事者に確実に届ける周知設計が必要になります。

まとめ:壁が下がった今が、始めどき

養育費確保は長く「正しく取り決める壁の高さ」に阻まれてきました。2026年の民法改正で、その壁が下がりました。電子署名で要件を満たす合意を無料で作り、最初の1年を保証で守る——当事者負担ゼロの一本道が、自治体連携で現実になります。制度(国の補助)も法律(改正民法)も追い風がそろった今が、始めどきです。

チャイルドサポートは、自治体の負担が発生しない形での連携を志向しています。他自治体の取り組みを聞いてみたい、弁護士による職員研修を検討したいという方は、お気軽にお問い合わせください。

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この記事の著者:佐々木裕介(弁護士/株式会社チャイルドサポート 代表取締役。法務大臣認証ADR機関 第184号)

※本記事の制度・法令・統計は、こども家庭庁「令和3年度全国ひとり親世帯等調査」「離婚前後家庭支援事業」、法務省「協議離婚に関する実態調査報告書」、2026年4月1日施行の改正民法等に基づきます。補助上限額・運用は自治体により異なります。私文書の法的有効性には要件があり、個別の効力は事案により異なります。